文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
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(解説者:杉江 松恋 / 書評家)
伊坂幸太郎は死の不安を書く作家だ。
口にする機会は少ないが、皆がそれを抱えて生きている。いや、生きるということ自体が、死の気配から目を逸らし続ける行為と等しいと言ってもいい。
背後に迫る死の影に、誰も気がつかないふりをしている。だが、ときどき伊坂は振り向いて、それが自分の後ろにいることを確かめようとする。恐怖映画に悲鳴を上げる子供が、指の隙間から画面を観るのをやめられないように。怖がりは、確認したがりでもあるのだ。
死が怖いからこそ、伊坂はその死を主題にした小説を書くのだと私は考えている。
『AX』の単行本版は二〇一七年七月二十八日に発売された。二〇〇四年の『グラスホッパー』、二〇一〇年の『マリアビートル』(いずれも現・角川文庫)に続く、殺し屋が主要人物として登場する小説の第三弾である。それまでは書き下ろしの長篇だったが、本作は初めて連作短篇集形式になった。前二作がバッタ(グラスホッパー)、テントウムシ(マリアビートル)と題名に昆虫の名前が使われていたのに対し、本作では「AX」、つまり斧という道具になっている。これは第一話のタイトルだ(初出:「小説 野性時代」二〇一二年一月号)。おや、と思って同話を読むとすぐに種明かしがある。主人公の兜が息子と交わす会話が「蟷螂(とうろう)の斧」という成語に関するものなのだ。
「でもそのことわざは、カマキリもその気になれば、一発かませるぞ、という意味合いではないんだろ」
「どちらかといえば、はかない抵抗という意味だ」
伊坂は一作ごとに異なる技巧を凝らす作家で、本作でもさまざまな手が試されている。今書いた蟷螂の斧のやりとりもその一つだ。読者は本のどこかでこの会話をもう一度思い出すことになるだろう。忘れたころに戻ってくるブーメラン、という伏線の技巧は伊坂が二〇〇七年の『ゴールデンスランバー』(現・新潮文庫)で極めたものだ。
『AX』では前二作に登場した殺し屋たちの消息が語られる。『グラスホッパー』の解説にも書いた通り、伊坂にはもともと、事故死に見せかけて人を消す殺し屋が多数出てくる小説という構想があったのだという。さまざまな殺し技を考えたが、物語として書くことを考えて、人を事故死させる押し屋、説得して相手に死を選ばせる自殺屋、ナイフ使いの三人だけが残った。これが『グラスホッパー』で、押し屋こと槿(あさがお)は『AX』にも顔を出す。
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March 28, 2020 at 03:00PM
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伊坂幸太郎の最高峰エンターテインメント小説! 凄腕の殺し屋“兜”が――実は恐妻家!?『AX アックス』(Book Bang) - Yahoo!ニュース
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