■格安スマホの負のイメージをいかに払拭できるか? わずか半年で会社認知度を24%から90%に
UQモバイルのCMと言えば、深田、多部、永野のUQ三姉妹が、ピンク・レディーの『UFO』の曲が流れる中、微動だにせずシュールな会話を繰り広げ、「UFO」の歌詞の部分で「UQ♪」と、こちらを向く展開や、「UQだぞっ♪」というセリフでおなじみだ。 深田・多部・永野の「UQ三姉妹」CMは、2016年10月からスタート。「三姉妹」シリーズはCM好感度も上位に入っており、数々のCM賞も受賞しているが、そこには立ち上げ当初からの“認知度の壁”と“刷り込み戦略”があった。
「当初のミッションはとにかくUQの認知を上げること。当時、格安スマホ市場は有象無象の熾烈な争いを繰り広げており、ワイモバイルが突出した存在でした。『UQモバイルを知っていますか?』と調査を行い、「知っている」と答えた人はわずか24%。そこで、半年以内にワイモバイルさんらと肩を並べる存在感を手に入れることを目標として掲げ、CM制作が始まりました」(杉浦さん/以下同)
半年以内に認知度を上げるためには、フレームとしてインパクトの強いものが必要だった。「当時、格安スマホと言えば、安かろう悪かろうのイメージがどうしてもありました。低価格だからこその“安っぽさを感じさせない”ブランドにしたいと考えました」
“安っぽさを感じさせない”ため、キャスティングも“それぞれ個性の違う圧倒的な美人”にこだわった。美術やメイクにもこだわり、視聴者から「あの深田さんが着ている服はどこで買えるのですか?」という問い合わせが来るほどのビジュアルに仕上げ、わずか半年後の認知度調査では、24%から90%に向上させた。
■こだわりは“静から動の一枚絵”の力…フォーマットを徹底することによる刷り込み戦略
こだわりはこれだけではない。「TVCMは一ヶ月で約1,000以上の素材が流れています。一瞬、目にしただけ、耳にしただけでも“それ”と分かる“型”が要るんです。ピンク・レディーの曲が流れ、三姉妹が身動き一つせずに、目線も合わさずシュールな会話を繰り広げる。そして「UFO♪」の歌詞で一斉にこちらを見て、三姉妹が「UQ」と。その後、三姉妹が一気に笑顔になって、ピンクバックの前で踊りながら宣伝をする。語尾に「だぞっ♪」をつける。この“フォーマット”を徹底することによって、“刷り込み”が行われるだろうと企画していきました」
滑り出しに成功した後は、女優たちに演技力を求めた。学割プランの訴求を主目的とした「JKになる三女」篇(17年)では、永野を主役にし「UQ♪」の部分を「JK」と入れ替えて放映。そのユニークさが受けてCM大賞を獲得。当時の永野は朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合)に出演する前で、「あの美女は誰?」と視聴者に強烈なインパクトを残した。同年春の「長女のひとりぐらし」篇では、長女役の深田が「UQ」を「有給(休暇)」とキョトン顔で披露。“変化球”を投げてCMの残像効果を拡大させることにも成功。
■あえてメインの三姉妹が登場しないCM、シリーズの“エッジ”をさらに際立たせる戦術
また、今年8月には、松坂慶子(長女)、大地真央(次女)、田中美佐子(三女)で“シニア三姉妹”を結成し、60歳以上国内通話し放題の「シニア割」や「おてがるスマホ」を訴求。SNSでは「斬新すぎて噴いた」「あの三姉妹が歳をとってる!?」などと話題になったが、これまでのメインキャストがまったく登場しない展開は、決して「路線変更」ではないという。
「UQでは昨年、『シニア割』のサービス提供を開始しましたが、そのこと自体があまり知られておらず、それを認知したいと考え制作しました。そうなると同世代のタレントさんが出演している方がよりメッセージ性が高くなる。そこで60歳以上の方を集めました。通常、60歳以上のタレントさんは、イメージ的に“やさしいおじいちゃんおばあちゃん”を想起してしまいがちですが、『UQ』CMの“エッジ”をさらに際立たせるため、それぞれ個性の異なる、とびっきりの美人のお三方に声をかけさせて頂いたのです」
メインの三姉妹が出演しないことに懸念はなかったのか。「ありました。深田さん、多部さん、永野さんのUQ三姉妹があまりに根付いているがゆえに、オリジナルキャストがまったく出ないとなると同ブランドとして伝わるか心配はありました。しかし、同作も『UQ』CMの世界観を引き継げているようで、お客様からは好評の声をいただいており、『UQ』ブランドは担保出来ていると実感しております」
■『UQ』CMで最も“尖っている”のはWEB広告 TikTok風や初期恋愛ゲーム風など“遊び心”も
一方、UQが最も“尖っている”のは WEB広告だろう。「動画広告はYou TubeやSNSで流れますので、とにかく “スキップされないこと”を重視しています」と杉浦さんが語るように、デジタル世代に受けているフレームに注視。UQ三姉妹が音楽に乗せて踊ったりしているダンスアプリ風のCMがそれだ。また平成初期の恋愛シミュレーションゲームを想起させるCMもあり、デジタル世代の中でも世代分けをしている。SNSでは「永野芽郁がTikTok始めたのかと思った」「多部未華子とのゲーム、売ってほしい」という声も多数見られた。
「デジタル展開はテレビとは違い、尺に自由が利きます。テレビだと30秒ですので、1メッセージやキャッチぐらいしか伝えられませんが、デジタルだと長めにも出来る。すると、そこにどういうメリットがあるか…というところまで踏み込めます。さらに、全国一斉に流れているTVCMと違って、You TubeやSNSなどではユーザーの層がある程度絞り込める。つまりターゲティングが取りやすいことも利点として挙げられますね」
今後の“課題”を伺うと、杉浦さんはCMの完成度については「ありません」と断言。「ただ、学割、60歳以上にもお勧めなど、多くのことをもっと伝えたいとは思っています」と続ける。
CM好感度についても目標がある。「好感度ってとても難しいもので、やはりTVCM展開が多ければ多いほど高くなる傾向があります。毎月CMを流せる企業もありますが、UQのTVCM展開は年に5~6回ほど。ですが『ゼスプリ キウイフルーツ』さんのCMが7月にCM好感度1位に輝いた例もあります。そういった好感度を『UQ』も手に入れていきたいですね」
“刷り込み戦略”による残存効果で、強いインパクトを残し続けているUQのCM。今後、UQ三姉妹がどのような展開を魅せてくれるのか? さらにWeb版ではどのような“遊び”を見せてくれるのか。限られた環境や制約を逆手に取る同社CMの今後が楽しみ…「だぞっ♪」。
(取材・文/衣輪晋一)
2020-09-08 23:40:00Z
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